パワハラで会社を辞めたい! ~退職へ向けて③ パワハラ退職への保障~

パワハラで会社を辞めたい! ~退職へ向けて③ パワハラ退職への保障~

パワハラで会社を辞めたい! ~退職へ向けて③ パワハラ退職への保障~

増え続けているパワハラに対応するシリーズ①作目では、具体的にはどういう行為がパワハラなのかについて、シリーズ②作目では、実際にパワハラに遭遇したけどその会社で仕事を続けたい場合に何ができるかを、パワハラの証拠集めについてとともにお話しました。



シリーズ③作目の今回は、パワハラを原因として会社を辞める決心をした場合、あなたの利益になるためには、どのような準備や手続きがあるのかについて、説明したいと思います。

一概に“パワハラ”と言っても、その程度や被害状況は様々です。ひどいイジメにより心身障害をきたしてしまう事例も増えたので、社会でも様々な対策が講じられています。

しかしながら、「パワハラを原因として」退職理由を会社都合にして保護の厚い失業給付を受けたり、労災認定を受けたりするためには、必要な証拠を集めて、「心身被害がパワハラによるものであった」ということが認定される必要があります。

なので、ここでパワハラを理由とした退職であると証明するためには、そのような認定をされる程度の証拠が揃っていることが前提であることをご確認ください。



シリーズ②を参考にして、一つ一つ根気よく証拠を集めていくことですが、悪質なケースでは、十分な補償を受けるためにも、早い目に労働基準監督署や弁護士などの専門家に相談を始めておくことも大事です。

それらの証拠を集めて、認定を勝ち取って行くのも、それなりの時間や労力を要することですし、弁護士への相談や裁判ともなれば先に出しておくお金も必要です。

認定されるか難しい程度のパワハラの場合には、

シリーズ②で説明したように、移動を申し出るとか、それ以上の被害を被る前に、戦わずして転職を考えてみるのも、人材不足で求職が沢山ある今は、あなたにとっては得策な場合も多いでしょう。

しかし、確実にパワハラといえる行為で著しい被害を被った場合には、それで退職をする人は、給料がもらえなくなった状況でも心身の健康を取り戻す期間が必要となります。そのような時に受けることができる金銭給付の保障体制についてまとめてみます。




大きく分けて3つの保障

まずは雇用保険から支給される「失業給付金(失業手当)」、そして健康保険から支給される「傷病手当金」、もうひとつが労災保険から支給される「労働者災害補償保険」です。



「失業給付金」は、再就職の意思がある人が失業期間中もらえる給付金ですが、退職理由(会社都合か自己都合)によって、給付期間や給付開始日が異なります。



「傷病手当金」は、病気や怪我により就労不能の状態にある人がもらえる手当金で、労災保険がおりない場合なので、正確には「パワハラを原因として」受けるものではありません。しかし、パワハラの証明をすること自体が難しいこともあるので、ならべて記載しておきます。



「労働者災害補償保険」は、業務上の災害または通勤上の災害によって、病気や怪我になったり、死亡した場合に、必要な保険給付を行う制度です。

このように、再就職できる状態であるのかや、原因が業務上の災害(ここではパワハラが認定されること)なのか、によってどれを受け取るかが異なります。

⒈ 失業給付金(失業手当)

仕事に就けないほどの状態ではなく、再就職先を探している人は、一定の条件を満たせば、ハローワークでの手続きにより、失業給付金を受け取ることができます。

受給資格は、①「失業状態」にあること、②退職日以前の2年間に雇用保険加入期間が通算12カ月以上あること、②そしてハローワークに求人の申し込みをしていることです。




1−1 離職理由

要件さえ満たせば比較的容易に受給できますが、パワハラが原因である場合にポイントとなるのは、「離職理由」です。

退職後会社から送付され、失業手当の手続きのためにハローワークに提出する必要がある「離職票」に記載されている「離職理由」が「会社都合」か「自己都合」かによって、給付開始時期や給付期間が異なるからです。
「自己都合」にて退職した場合は『一般受給資格者』として、「待期期間」の7日間に加え、3ヶ月間の「給付制限」があり、「給付日数」が加入日数により90~150日間となります。

「会社都合」にて退職した場合は『特定受給資格者』として、「待期期間」の7日間のあとすぐに受給が可能になり、「給付日数」も加入日数により90日間~330日となります。

下記の表の通り、1年未満で退職した方は90日間の失業手当がもらえるかどうか、1年以上5年未満の方では30歳以上の方には給付日数が90〜150日までの違いが生じます。その他も、加入日数や年齢によって、もらえる失業手当が変わるのがわかりますね。

特に、3ヶ月の「給付制限」が課せられるかどうかの違いは、手元に貯金が無い方には、現実問題として大きくのしかかります。

不当なパワハラが原因の場合が明らかであり、そのために退職や再就職を余儀無くされた場合には、心身を整える期間や納得のいく再就職先を見つけるためにも、会社都合での退職にもっていくことができるか対策を練っておきたいですね。

自己都合による退職の場合

加入期間 1年未満 1年以上5年未満 5年以上10年未満 10年以上20年未満 20年以上
全年齢 なし 90日間 120日間 150日間

会社都合による退職の場合

加入期間 1年未満 1年以上5年未満 5年以上10年未満 10年以上20年未満 20年以上
30歳未満 90日間 90日間 120日間 180日間
30歳以上35歳未満 120日間 180日間 210日間 240日間
35歳以上45歳未満 150日間 240日間 270日間
45歳以上60歳未満 180日間 240日間 270日間 330日間
60歳以上 150日間 180日間 240日間
65歳未満 210日間

1−2 退職届はパワハラを原因に

法律上、退職するのに具体的な理由は必要ないため、一般的に退職届の退職理由には、当たり障りのない、「一身上の都合」と記載されることが多いです。

しかしながら、あなたが自分の意思で記載して提出した文書である退職届は、一種の証拠にもなるものですので、退職の原因がパワハラであるとの主張を求めていく場合に、自ら「一身上の理由」とするのは、有利とは言えません。

もちろん、会社や加害者ともめ事になるのを避けるためや、とにかく早く会社から退散したいと追い詰められて、退職理由を「一身上の都合」と書いてしまうこともありますので、それだけで、自己都合退職を認めたとなるわけではありませんが、覆すためにはそれなりの証拠が必要になってきます。

なので、パワハラであることの認定を求めたり争う姿勢であるならば、退職届には、堂々と「〇〇氏からのパワハラで就業が困難であるため」などと、その事実を記載しておきましょう。

退職届を会社に送る場合には、会社側に「受け取ってない」と言われたり内容を捻じ曲げられないしないためにも、記録に残るメール添付として送るか、内容証明郵便かつ配達証明郵便で送ると、その内容と配達された事実が郵便局により記録されます。インターネットによる内容証明サービスもあります。
(https://www.post.japanpost.jp/service/fuka_service/syomei/)




1−3 離職票が自己都合とされたら

退職届には退職理由をパワハラと書いて提出したのに、退職後、会社から送られてきた離職票の退職理由が「一身上の都合」とされてしまっていたら、どうすればよいでしょうか。

会社としては、後の行政上の処分など(助成金が受けられなくなる等)会社に都合の悪い「会社都合」の離職を認めず、そのようなことがありえます。
そんな時は、ハローワークに、離職理由の異義を申し出る手続きがあります。

そうすれば、労働基準監督署が、あなたの言い分を聞きながら、会社にパワハラの存在を調査します。

会社としてはパワハラの事実を否定することが考えられるので、シリーズ②を参考に退職前にパワハラの証拠を集めておいて、初めからパワハラの証拠をハローワークの担当者や労基に示せるように準備をしておきましょう。

「特定受給資格者」には、「“解雇”等により離職した者」の13項目のうち10項目に、(10) 上司、 同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって離職した者という記載を示していますので、その事実を証明するのです。
(引用: https://www.hellowork.go.jp/insurance/insurance_range.html

パワハラで会社を辞めたい! ~退職へ向けて③ パワハラ退職への保障~

⒉ 傷病手当金

傷病手当金とは健康保険から給付されるもので、疾病や負傷などにより就労不能状態にあり、給与がもらえないもしくは減額されている人の生活保障となります。

一定の条件を満たせば退職後にも受け取ることができます。

本来、パワハラによって心身に障害をきたした場合は、「業務上の災害」として労災保険の範疇に入るべきものですが、すでに話した通り、パワハラの証拠を集めその事実を証明すること自体が容易ではない場合が多いのが現実です。

この場合は、パワハラの証明や理由の如何を問わず、まずはあなたの健康を回復するために、保障を受けながら休息をとることが最優先されるべきです。精神の病は特にこじらせないことが大切です。

傷病手当金は失業給付金とは併用できません。傷病手当金に関しては退職前の手続きが少々複雑なため、傷病手当金か失業給付金のどちらを受け取るかという判断は退職前にする必要があります。

傷病手当金が支給される期間は、支給開始した日から最長1年6ヵ月です。1年6ヵ月の間に仕事に復帰した期間があり、その後再び同じ病気やケガにより仕事に就けなくなった場合でも、復帰期間も1年6ヵ月に算入されます。

傷病手当金の受給中にアルバイトをするなど、就労可能とみなされてしまうと受給資格がなくなる点には注意してください。

2−1 就業中に申請する場合

まず、会社に病気であることを報告し、傷病手当金を受給したい旨を伝えましょう。



そして有休もしくは欠勤によって3日間連続で会社を休んでください(「待機期間」)。この3日間の中には、土日祝などの公休を含むこともできます。

「待期期間」は支給がありませんが、4日目から傷病手当金が支給されます。4日目以降は連続で欠勤する必要がありません。ただし、明らかに就労可能とみなされるほどの出勤はしないほうがよいでしょう。

「傷病手当金支給申請書」も準備します。保険者(協会けんぽなど)から取り寄せるか、協会けんぽの場合はホームページからダウンロードできます。
(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139)

申請書を入手したら、医師による「意見書」の記入が必要になるので、医師に記入を依頼しましょう。病院によってはすぐに書いてもらうことができないことがあるため、余裕をもって依頼するようにしましょう。

申請書には医師の意見書のほか、会社に書いてもらう「事業主記入欄」があるので、会社に依頼して書いてもらいましょう。この記入欄は会社を休んだことと、その間給与を支払っていない、もしくは減額されたことを証明する欄になります。

申請書の本人記入欄も記入し、書類をそろえたら、健康保険の保険者(健康保険証に記載されています)に提出します。提出は会社を通してもらえる場合は会社を通したほうがよいでしょう。

詳しくは、各健康保険者に問い合わせるのが確実でしょう。最も多い協会けんぽの場合は、上記がHPです。

2−2 退職後も受給する場合

退職後に傷病手当金を受給するためには、①退職日までに継続して1年以上健康保険の被保険者であることと、②退職日に傷病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしていること、が要件になります。

①は、転職により保険者が違っていても、継続して1年以上の被保険者期間があれば大丈夫です。たとえば、前の会社を半年間務めて退社した後、1日も空けずに今の会社に再就職して半年間務めていた場合は、条件を満たすことができます。

②の退職時に傷病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしているとは、簡単に言うと、退職日に就労不能で出勤できないということです。退職日のあいさつや荷物の整理などで出勤してしまうと受給できなくなってしまうので気を付けましょう。

2−3 退職後に申請する場合

退職後に初めて申請する場合に、「就労期間中に3日間の待期期間を完成させる」、「退職日までに継続して1年以上の健康保険の被保険者期間がある」、「資格喪失時に傷病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしている」の条件を満たせば受給できます。

ただし、初回申請の時には会社に「事業主記入欄」の記入をしてもらう必要があるので、退職後も会社とのやりとりが発生します。


⒊ 労災保険

労災保険は、労働者災害補償保険法に基づき、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするために保険給付を行い、併せて被災労働者の社会復帰の促進、被災労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図ることにより、労働者の福祉の増進に寄与することを目的としています。

労災保険の対象となる労働者とは、正社員ばかりではなく、パートタイマー、アルバイト等、使用されて賃金を支給される人すべてをいい、雇用形態には関係ありません。



通常の疾病では、認定されると治療費や休業補償給付などが支給されます。労災保険の休業補償は支給期間の制限がないほか(正確には、1年6カ月を超えると休業補償給付から傷病保障年金に切り替わる)、傷病手当金とは支給額の計算が異なるため人によっては支給額が多くもらえたりと、傷病手当金よりも手厚い保障を受けることができます。

3−1 認定条件

労災の認定要件は、最終的には労働基準監督署により判断されます。参考に、労働省が定めている認定基準を添付しておきます(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120215-01.pdf)。そしてパワハラが原因であると認定されるには、ある程度の証拠が必要です。

①障害を発症していること

暴行を加えられたことにより怪我をした場合は当然のこと、精神障害も含まれます。うつ病、適応障害、パニック障害、睡眠障害などや、病気と言えないまでも、うつ状態にあるとして認定される場合もあります。

具体的な判断は、医学的見地から慎重に判断されることになっていますので、実際には医師の診断書が必要になります。

②発症前6カ月間に業務による心理的負荷がみられること

心理的負荷による労災認定基準は、「心理的負荷評価表」により明確化され、審査されて強と評価される場合に認定要件を満たすことになります。

発病前の6カ月間に職場で起きた出来事を全て評価表に記録し、ストレスの強い順にⅢ・Ⅱ・Ⅰの3段階で評価するというものです。

2009年4月には10年ぶりにこの基準が見直され、いじめや嫌がらせがⅢと判断されるようになり、パワハラと精神障害の因果性が認められやすくなっています。

③職場以外の心理的負荷によって発病したものではないこと

心理的負荷を受ける原因は、個人によって様々で、家庭内や職場以外が原因になっていることもあります。なので、労災と言えるためには、職場以外の原因も探っていく必要があります。

これも、前述労働省が定める職場以外での「心理的評価負荷表」に基づいて、判断されることになります。



3−2 申請手順

①申請書を入手する

本人または家族が自ら労働基準監督署へ行って、労働者労働災害保険請求書(5号、7号、8号用紙があります)をもらいます。

この申請書に、自分の住所や氏名、生年月日、事件の発生した状況等を記入して労働基準監督署に提出します。

②会社の署名押印もしくは 医師の診断書をもらう

申請書には、会社側の押印と労働保険番号の記入欄がありますが、会社側がパワハラによる申請を受けつけないことは十分考えれます。その場合には、治療日数と医師の証明印が入った診断書をもらいます。

③申請書を提出する

5号用紙は病院に提出し、7号、8号用紙は「労働者労働災害保険請求書」と一緒に労働基準監督署に提出します。

会社記入欄が空白の場合でも、申請は受理され、その場合は、労働基準監督署が会社に調査に入ることになります。

まとめ

今回は、パワハラが原因で会社を辞めることになった場合に、どのような保障を受けることができるかについてまとめてみました。

とはいえ、「パワハラが原因」と認められるためには、それなりの証拠が必要です。本来は、きちんと証明して、それなりの保障が受けられるべきですし、そのような加害者は明るみに出て自覚するべきです。

しかしながら、そのような証拠に乏しい場合は、無理に耐えて追い詰められたり、心身に障害をきたしてしまう前に、退職を前向きに検討するようにしましょう。

繰り返しますが、最も大切なのは、あなたの健康と人生なのです。

パワハラなど横行していない会社だって、沢山この世には存在するのです。

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