給与未払いに悩んでいる場合は、労働基準監督署に相談・申告するのも選択肢のひとつです。
しかし、労働基準監督署への相談はほとんどの人が初めて経験することでしょう。
申告の方法や、具体的にどういう対応をしてもらえるのかがわからず不安になるものです。
本記事では、給与未払いについて労働基準監督署に相談・申告するための準備や手順、具体的にどういう対応をしてもらえるかなどを解説します。
また、労働基準監督署以外に給与未払いについて相談できる窓口も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目 次
給与未払いを労働基準監督署に相談・申告すると対応してくれること
給与未払いを労働基準監督署に相談・申告した場合は、基本的に以下のような対応をしてくれる可能性があります。
- 立ち入り調査
- 文書指導
- 送検・起訴
また、以下の点も確認しておきましょう。
- 未払い賃金を支払わせる強制力はない
- 会社が倒産している場合は未払い賃金立替払制度の利用も可能
給与未払いの問題に直面した際、労働基準監督署への相談や申告を検討していても、実際にどのような対応をしてもらえるのかわからないというケースは多いでしょう。
労働基準監督署がとる対応について、以下で具体的に解説していきます。
立ち入り調査
まず労働基準法違反などの事実があるか確認するために、労働基準監督署による職場への立ち入り調査(臨検)がおこなわれるのが一般的です。
労働基準監督署には強制的に立ち入り調査できる権限が与えられており、原則として会社側が拒否することはできません。
立ち入り調査では、監督官が直接職場を訪れ、労働条件や給与支払いの状況をチェックします。
就業規則やタイムカード・業務月報などの書類の確認のほか、事業主や労働者に対する事情聴取がおこなわれるケースもあるでしょう。
文書指導
立ち入り調査の結果、労働基準法違反や改善点が確認された場合、労働基準監督署は会社に対して文書指導(是正勧告、改善指導等)をおこないます。
文書指導では、違反内容や是正すべき点を明確に記載した書面が送付されます。
会社はこの指導書に基づいて是正措置を講じる必要があり、労働基準監督署に進捗状況の報告が必要です。
送検・起訴
労働基準監督署による文書指導に従わなかったり、正当な理由なく調査を拒否・妨害したりした場合は、悪質であると判断され、労働基準監督署が警察権限を行使し、事業主を送検・起訴するケースもあります。
この措置は、重大な違反や再三の指導にもかかわらず是正がなされない場合に限られますが、労働基準監督署がもつひとつの権限として押さえておきましょう。
未払い賃金を支払わせる強制力はない
労働基準監督署は、会社に対して従業員に未払い賃金を支払うように命じる強制力はもっていません。
立ち入り調査や文書指導、さらには送検・起訴といった措置を通じて会社に対して圧力をかけられますが、直接的に未払い賃金の支払いを命じる権限はないのです。
そのため、労働基準監督署へ相談・申告しても、未払い賃金が支払われるとは限らない点は理解しておく必要があります。
会社が倒産している場合は未払い賃金立替払制度の利用も可能
会社の倒産によって給料が支払われないまま退職した場合、未払い賃金立替払制度を利用できる可能性があります。
未払い賃金立替払制度とは、未払いとなっている賃金の一部を立て替えて支払ってもらえる制度です。
この制度を利用するには、(1)使用者が①1年以上事業活動をおこなっていたこと、②倒産したことや、(2)倒産について裁判所への申立て等が行われた日の6か月前の日から2年の間に退職した者であることなどの要件を満たす必要があります。
未払い賃金立替払制度の詳細は、最寄りの労働基準監督署に問い合わせて確認しましょう。
給料未払いを労働基準監督署に相談する前の準備
給料未払いを労働基準監督署に相談する際は、事前にいくつかの準備を整えておきましょう。
- 未払いの証拠を揃える
- 会社に請求をおこなっておく
- 必要に応じて弁護士に意見書を書いてもらう
これらの準備が整っていないと、労働基準監督署に相談しても十分な対応をしてもらえない可能性があるため注意が必要です。
相談前におこなうべき準備について、以下でひとつずつ解説していきます。
未払いの証拠を揃える
給料未払いの問題を労働基準監督署に相談する際は、未払いの状況を証明できる証拠を揃えましょう。
証拠として提出できる資料には、以下のようなものが挙げられます。
- 賃金規定を含む就業規則
- タイムカードの写し
- 業務日報
- シフト表
- 給与明細書
- 雇用契約書
- 預金通帳
これらの証拠を事前に準備しておけば、労働基準監督署への相談がスムーズに進み、問題解決に向けた具体的な対応を期待できます。
会社に請求をおこなっておく
労働基準監督署に相談する前に、まず会社に対して未払いの請求をおこなっておくのも大切です。
書面で請求する場合は、記録の残る内容証明郵便で送りましょう。
内容証明郵便は、いつ誰がどのような内容を送付したかを郵便局が証明してくれるサービスです。
後々裁判手続きに移行した場合でも、内容証明郵便を送った事実があれば請求内容や請求意思を立証できます。
必要に応じて弁護士に意見書を書いてもらう
場合によっては、弁護士に相談し、意見書を書いてもらうのも有効な手段となります。
弁護士による意見書には、法的な観点から未払いの事実とその根拠が記載されます。
意見書をもって労働基準監督署に相談すれば、より具体的かつ強力な根拠によって問題解決を進められるでしょう。
自分でうまく説明できそうにない場合や、事案が複雑な場合には、弁護士への相談も検討してみてください。
未払い賃金について労働基準監督署に対応してもらうためのポイント
未払い賃金について労働基準監督署に対応してもらうためのポイントは、主に次の2つです。
- 相談ではなく、申告・通報をおこなう
- 証拠を用意して直接労働基準監督署に行く
せっかく相談・申告をおこなっても、対応してもらえなければ手間や時間が無駄になってしまいます。
効果的な対応をしてもらうためのポイントについて、以下で具体的に確認していきましょう。
相談ではなく、申告・通報をおこなう
労働基準監督署に対しては、単なる相談ではなく、申告または通報をおこなうのをおすすめします。
相談は問題の解決を求めるものではなく、どのように対応すべきかのアドバイスを受けるための手続きです。
一方で、申告や通報は問題の解決を目的としており、労働基準監督署に対して具体的な対応を求める手続きです。
申告や通報によって、労働基準監督署が問題の調査や是正指導などの対応をおこなってくれる可能性が高まるでしょう。
証拠を用意して直接労働基準監督署に行く
労働基準監督署に対応を求める際には、証拠を用意して直接行くのが効果的です。
直接窓口に行けば証拠となる資料を見せながら説明できるため、未払いの状況や求める対応をより明確に伝えられます。
なお、労働基準監督署の開庁時間は、基本的に平日の8:30~17:15です。
地域によって異なる可能性もあるため、事前に最寄りの労働基準監督署の開庁時間を確認してから向かうようにしましょう。
未払い賃金について労働基準監督署に申告する際の注意点
未払い賃金の問題を労働基準監督署に申告する際には、いくつかの注意点があります。
- 労働基準監督署が必ず対応してくれるわけではない
- 労働基準監督署に申告したことが会社にばれる可能性もある
これらの点を理解したうえで、申告すべきかどうかを検討するようにしましょう。
各注意点について、以下で具体的に解説していきます。
労働基準監督署が必ず対応してくれるわけではない
労働基準監督署に未払い賃金の問題を申告したからといって、必ずしも積極的に対応してもらえるとは限りません。
労働基準監督署は多くの案件を抱えており、対応には限界があります。
また、問題の内容や証拠の具体性によっては、十分な対応が難しい場合もあるでしょう。
申告後も自分で状況を追跡し、必要に応じて再度相談するなど、積極的に行動する必要があります。
労働基準監督署に申告したことが会社にばれる可能性もある
労働基準監督署に申告すると、その内容が会社にばれる可能性もあるため注意が必要です。
労働基準監督官は、守秘義務を負っているため(労基法第105条)、匿名であることを希望した場合には申告した人の名前を会社側に伝えることはありません。
しかし、中小企業の場合で、立ち入り調査や文書指導などの対応がおこなわれる場合には、事実上会社側の方で申告者が特定できてしまうケースはあります。
申告する際は、職場での人間関係が悪化するリスクも考慮したうえで検討しましょう。
なお、労働基準監督署への申告を理由とした解雇などの処分は基本的に認められないため、万が一不当な処分を受けた場合には争うことが可能です。
労働基準監督署以外の相談先
労働基準監督署以外にも、給与未払いに関する相談を受け付けている機関や窓口があります。
- 労働条件相談ほっとライン
- 労働基準関係情報メール窓口
- 弁護士
手軽に相談したい場合や、労働基準監督署では解決が見込めない場合には、ほかの機関への相談を検討しましょう。
それぞれどのような相談先なのか、以下で詳しく紹介していきます。
労働条件相談ほっとライン
厚生労働省委託事業である労働条件相談ほっとラインは、労働基準関係法令に関する問題についての相談を受け付けている電話相談窓口です。
フリーダイヤルに電話をかけると、専門知識をもった相談員が、法令や裁判例に基づいた相談対応や関係機関の紹介などをおこなってくれます。
平日は22:00まで、土日祝日は9:00~21:00まで開設しているため、平日の日中は仕事で相談できないという人も利用しやすいでしょう。
労働基準関係情報メール窓口
メールで申告したい場合には、厚生労働省の「労働基準関係情報メール窓口」を利用するのがおすすめです。
労働基準法などの違反が疑われる会社の情報をメール窓口に提供すると、関係する労働基準監督署や都道府県労働局に送付され、立ち入り調査対象の選定の参考にされます。
注意すべきなのは、必ずしも調査がおこなわれるわけではない点と、個別の情報照会や相談には対応していない点です。
情報提供は匿名でも可能なため、緊急性がない場合の申告方法として利用するのがよいでしょう。
弁護士
給与未払いの問題を解決するための相談先として、弁護士を選択するのもひとつの手段です。
会社に再三請求しても支払ってもらえない場合など、法的な手段をとるべきケースもあります。
そのような場合には、労働基準法などに精通しており、法的な観点から適切なアドバイスを提供してくれる弁護士に相談するのが望ましいです。
弁護士にもそれぞれ得意分野があるため、給与未払いの相談であれば、労働関係の問題に詳しい弁護士に相談しましょう。
会社が賃金を支払わなかった場合は民事手続きをおこなう
労働基準監督署などの機関に相談しても、会社から賃金を支払ってもらえない場合は、再場所を通じた法的手続きを利用するのも解決策のひとつです。
- 支払督促
- 少額訴訟
- 労働審判
- 民事訴訟
これらの手続きは、裁判所を通じて未払い賃金の支払いを求めるものです。
どのような手続きなのか、以下で詳しく解説していきます。
支払督促
支払督促は、簡易裁判所に申し立てをおこない、未払い賃金の支払いを督促してもらう手続きです。
裁判所へ出向かなくても、郵送やオンラインによる申し立てができます。
仮執行宣言付支払督促を取得した後も会社が支払いに応じない場合は、その後強制執行手続きに移行する必要がありますが、支払督促自体は訴訟をおこすよりも手軽な手段として利用できるでしょう。
少額訴訟
少額訴訟は、裁判所に訴えをおこし、未払い賃金の支払いを求める手続きです。
この手続きは、未払いとなっている金額が60万円以下の場合に利用できます。
裁判所への出廷は必要ですが、原則として1回の期日で審理を終えられるため、通常の訴訟よりも短期間で終了するのが特徴です。
ただし、訴えられた会社側の希望などによって、通常の訴訟手続きに移行する可能性もあります。
労働審判
労働審判は、労働者・事業主間の労働関係のトラブルを解決するための手続きです。
原則として3回以内の期日で審理を終えるため、通常の訴訟よりも迅速に解決できる傾向にあります。
また、当事者のほかに、労働審判官(裁判官)や労働審判員といった労働問題の専門家が参加するため、事業場の実情に即した妥当な解決案を期待できるでしょう。
民事訴訟
民事訴訟を提起して、未払い賃金の請求をするという方法もあります。
労働審判手続きで和解できる可能性が低い場合などは、はじめから訴訟を提起するという方法もあります。
給与未払いは弁護士への相談がおすすめ
給与未払い問題に対して確実な解決を求める場合は、弁護士へ相談するのがおすすめです。
弁護士に相談すると、次のようなメリットがあります。
- 代理で未払い請求をしてもらえる
- 証拠がない場合の対策を相談できる
- 訴訟をおこす際の対応を任せられる
とくに法的な手続きを検討している場合には、弁護士のサポートが不可欠といえます。
給与未払いを弁護士に相談するメリットを、以下でひとつずつ見ていきましょう。
代理で未払い請求をしてもらえる
弁護士に相談するメリットのひとつは、弁護士が代理人として未払い請求をおこなってくれる点です。
依頼者に代わって弁護士名で未払い賃金の請求をおこなうと、会社側は問題を深刻に受け止め、支払いに応じやすくなります。
また、本人が直接交渉する必要がなくなるため、ストレスや対立を避けながら問題の解決を目指せるでしょう。
証拠がない場合の対策を相談できる
弁護士には、給与未払いの証拠がない場合の対策も相談できます。
すでに退職していて証拠を集められなかったり、証拠の集め方がわからなかったりする状況でも、どのように対処すべきか適切なアドバイスを提供してくれるでしょう。
手元に証拠がなかったとしても、会社への請求が可能なケースはあるため、諦めずに弁護士に相談することが大切です。
労働審判や訴訟をおこす際の対応を任せられる
訴訟をおこす際の対応を任せられるのも、弁護士に相談するメリットのひとつです。
給与未払いの問題が解決しない場合に、労働審判や訴訟をおこすのが最終的な解決策となるケースもあります。
訴訟手続きは複雑で時間もかかるため、一般の人には難しい作業ですが、弁護士に依頼すれば全ての手続きを任せられます。
さいごに|給料未払いを解決するなら弁護士に相談
給料未払いの問題に直面した際は、まず個人での請求や労働基準監督署への相談を検討するのが一般的ですが、必ずしも解決できるとは限りません。
そのような状況で、解決に向けたもっとも有効な手段のひとつが、弁護士への相談です。
弁護士は法的な知識と経験をもち、未払い賃金の回収に向けた具体的な対応策を提案し、サポートしてくれます。
給料未払いの問題が発生したら、ひとりで悩まずに専門家である弁護士に相談してみてください。