働いた分の給料は、退職後であっても必ず受け取れるべきものです。
ですから、支払われていない給料があれば、会社に対して請求することができます。
そこで本記事では、未払いの給料を請求する方法について解説します。
請求する際のポイントや相談先についても解説するので、本記事を参考に手続きを進めてください。


目 次
退職後の給料が振り込まれないのは違法
結論から言えば、退職後の給料が振り込まれないのは違法です。
労働基準法により、会社は労働者が働いた分の給料を支払う義務があります。
労働基準法第24条においては、賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならないとされています。既に働いた分の賃金は、当然に支払われなければなりません。
引用元:労働基準法第24条(賃金の支払)について|厚生労働省
ここで振り込まれる義務のある給料には、以下のものが含まれます。
- 毎月の給料
- 残業代
- 割増賃金
- 退職金
- 賞与
- ボーナス など
これらが支払われていない場合は、労働基準法第120条1号に則って30万円以下の罰金が科される場合があります。
ただし、残業代に限っては罰則が6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金となります(労働基準法第119条1号)。
退職後に給料が振り込まれないときの請求方法
退職後に給料が振り込まれていないとわかったら、以下の流れで対応を進めていきます。
- まずは会社へ連絡する
- 未払い給料額を計算する
- 証拠を残すなら内容証明郵便を送る
- 行政指導による解決を図るなら労働基準監督署に申告
- 法的に解決したい場合は労働審判
- 確実に受け取るなら民事訴訟
会社へ連絡してすぐに振り込んでくれるのであれば、大きなトラブルにもなりません。
ですから、いきなり法的な措置を検討する前に、上記の順番でおこなってください。
以下では、それぞれの具体的な内容について解説します。
まずは会社へ連絡する
給料が振り込まれていないと確認できたら、まずは会社の人事部などの担当部署に電話・メールで問い合わせてみましょう。
「振込日の関係で支払いが遅れている、手配漏れで振り込まれていない」などのケースもあるからです。
これらの問題であれば、すぐに解決します。
問い合わせをする場合は、「いつ問い合わせしたのか?」の証拠を残せるように、念のためメールで送っておくとよいです。
未払い給料額を計算する
退職後にいつもより低い給料で振り込まれるケースもあるので、未払い給料額の計算をおこなっておきましょう。
「退職した人だから」という理由で、基本給のみが支払われるケースもあるからです。
給料を計算する際は、以下の証拠になるものを集めておきます。
- 勤怠表
- タイムカード
- 業務日誌 など
給料の計算は、以下の方法でおこないます。
締め日を退職日とする場合 | 締め日前に退職する場合 |
支払い額 = 総支給額(基本給+ 各種手当) - 控除額(社会保険料+税金+その他の控除) | 基本給を日割りして計算 |
上記の計算が難しい場合には、弁護士などの専門家に相談しながら進めていきましょう。
証拠を残すなら内容証明郵便を送る
問い合わせをしたにも関わらず給料が振り込まれない場合は、内容証明郵便で証拠を残しましょう。
証拠を残しておかないと「問い合わせをした」「問い合わせは受けていない」などの、「言った・言っていない」のトラブルになってしまいます。
内容証明郵便そのものに法的強制力はありませんが、支払い請求をした事実を証明するものとして、今後有利になります。
ただし、内容証明郵便は条件や形式が細かく定められているので、専門家に相談しながら進めるとよいでしょう。
行政指導による解決を図るなら労働基準監督署に申告
個人で連絡しても対応をしてもらえない場合は、労働基準監督署に相談しましょう。
給料の未払いは労働基準法違反であるため、労働基準監督署が会社に対し行政指導してくれる可能性があります。
具体的には、会社への立ち入り調査や是正申告などの対応をしてくれることがあります。
その結果、未払い分の給料が振り込まれる可能性が高くなるのです。
ただし、労働基準監督署による行政指導には強制力はないので、必ず未払い賃金が支払われるわけではありません。
法的に解決したい場合は労働審判
未払いの給料を確実に支払ってもらいたい場合には、労働審判を申し立てましょう。
労働審判とは、労働審判委員会(裁判所の裁判官や審判員)が仲介役となり、労働トラブルを解決する法的手続きです。
原則3回の審理で終わるため、訴訟を提起するよりも迅速に解決できる可能性があります。
労働審判において、会社側と合意ができた場合には、調停が成立し、合意内容に基づいて会社から未払いの給料を支払ってもらうことが期待できます。
万が一合意内容どおりに支払われない場合には、強制執行手続きに移行することができます。
また、話し合いがまとまらない場合には、労働審判委員会が事案の実情に即して労働審判を示します。
労働審判に対し、2週間以内に異議の申し立てがなければ、労働審判は確定し、強制執行手続きに移行することができます。
確実に受け取るなら民事訴訟
ここまでの方法をおこなっても、給料が支払われなかったり、計算額と異なる分しか受け取れなかったりする場合は、民事訴訟を検討しましょう。
民事訴訟は、いわゆる裁判で、主張と立証を重ねて、最終的に裁判官が判決を出します。
無事に勝訴できれば、会社側に請求額の支払いを命じる判決が下されます。
ただし、審理期間は平均で1年~2年と、長期間に及ぶ可能性もあります。
万が一判決が確定したあとも会社が支払わない場合には、強制執行手続きを検討する必要があります。
退職後の給料を請求する際に必要な証拠
給料の未払いを労働基準監督署や弁護士に相談する際は、証拠を集めておきましょう。
証拠が揃っていなければ、正しい給料を支払ってもらえない可能性があります。
また、労働基準監督署や弁護士に対応してもらえない可能性もあります。
証拠として集めておくべきものを、以下の表にまとめました。
支払い状況の証拠 | ・給与明細書 ・源泉徴収票 ・銀行口座の通帳 |
給料に関する契約内容の証拠 | ・雇用契約書 ・労働条件通知書 ・給与規定、賃金規定 |
実際の勤務状況の証拠 | ・勤怠表、シフト表 ・タイムカード ・業務日誌 ・業務上のメール |
残業代などを含めた正確な給料を請求するためにも、集められる限りの証拠を集めておきましょう。
未払い給料の請求には3年の時効がある
未払い給料の請求をする前に、給料等の支払い日から何年経過しているかを確認しておきましょう。
なぜなら、未払い給料の請求には3年の時効があるからです(労基法第115条、附則第143条3項)。
毎月の給料支払い日から3年が経過してしまうと時効となり、支払い義務はなくなってしまいます。
時効をむかえてしまわないためにも、未払い給料がある場合は早い段階で動き出しましょう。
退職後に給料が振り込まれない際によくある質問
ここまでで、未払い給料の請求方法について解説してきました。
しかし、疑問点が残っている方もいるかと思います。
以下によくある質問についてまとめましたので、参考にしてください。
給料が振り込まれない場合は、いつまで待つ必要がありますか?
振り込まれていないと気づいた時点で対応してください。
数年後に連絡しても対応してもらえなかったり、既に時効をむかえてしまっている可能性があります。
ばっくれた場合でも請求できる?
ばっくれた場合(無断退職)した場合でも、給料の請求はできます。
会社で労働していたことには変わりません。
ただし、無断退職で会社に損害を与えていた場合は、反対に損害賠償請求をされる可能性も否定はできません。
給料未払いを理由に退職した場合は会社都合退職になる?
給料未払いを理由に自分で退職した場合でも、会社都合退職になる可能性があります。
原則としては、自分で退職を伝えていれば自己都合退職です。
しかし、以下に挙げるような事由に当てはまる場合は、特定受給資格者と認められる可能性があります。
- 労働契約で締結した労働条件が事実と著しく異なることを理由に退職した
- 給料の3分の1を超える額が、引き続き2か月以上給料日までに支払われなかった
- 給料の3分の1を超える額が支払われなかったことが、退職の直前6か月の間に3月あった
自己都合退職は失業手当の面で不利になりますが、特定受給資格者であれば失業給付日数や初回の支給などが有利になる可能性があります。
退職月の給料がいつもより少ないのはなぜ?
退職月の給料がいつもより少ないケースは実際に多くありますが、必ずしも違法とはいえません。
主に以下の場合に、給料が少なくなっています。
- 通勤手当の前払い分が払い戻された
- 社会保険料が2ヵ月分引かれている
上記の場合は、給料の金額から控除されていても問題ないといえます。
退職後の給料を手渡しで受け取ってもよい?
手渡しで給料を受けとっても、何ら問題はありません。
労働基準法第24条では、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定められており、支払い方法については規定されていないのです。
会社が倒産していても請求できる?
退職後に会社が倒産してしまった場合は、当然ながら会社に対して請求はできません。
しかし、国の未払い賃金制度を利用できる可能性があります。
以下の条件にあてはまっていれば、未払い給料の一部を国が立て替えてくれます。
- 倒産した会社に労働者として雇用されていた
- 退職日が、会社か倒産した日の6ヵ月前から2年の間である
- 会社が倒産してから2年以内に、立替払いを請求する
- 未払い賃金の総計が2万円以上である
ただし、立て替えてもらえる金額は、原則として未払い分の8割で、年齢ごとに上限があります。
なお、法律上の倒産の場合には破産管財人等による証明を、事実上の倒産の場合には労働基準監督署長による確認を受けたうえで、独立行政法人労働者健康安全機構に立替払の請求をおこなう必要があります。
未払賃金立替払制度の詳細については厚生労働省の「未払賃金立替払制度の概要と実績」も参考にしてください。
退職後に給料が振り込まれない場合は弁護士に相談がおすすめ
退職後に給料が振り込まれず、自身で連絡しても対応してもらえないなら、弁護士に相談してみましょう。
弁護士以外の相談先もありますが、基本的には「相談まで」の範囲で留まってしまうため、解決にはつながりにくいです。
対して、弁護士に相談すれば、自身に代わって請求や訴訟をしてもらえます。
以下で、弁護士に依頼するメリットを解説しますので、ぜひご検討ください。
未払い給料の請求に関するアドバイスを受けられる
未払い給料が発覚した際は、まずは弁護士に相談しておきましょう。
なぜなら、未払い給料を請求するための最良の手段をアドバイスしてもらえるからです。
未払い給料の請求は、「会社への問い合わせ・労働基準監督署への申告・労働審判・民事訴訟」など多岐にわたります。
そのなかから、最適な方法をご自身で判断するのは難しいです。
弁護士に相談することで、自身の状況に合った請求方法を提示してくれます。
また、給料の計算や証拠の集め方についてもアドバイスしてくれるでしょう。
依頼すれば未払い給与の請求対応を任せられる
弁護士に依頼すれば、ご自身の負担を軽減できます。
ご自身の代理人となって動いてくれるので、会社への請求対応をおこなってくれます。
法的な知識が必要になった場合も問題ありません。
訴訟になった場合もサポートしてもらえる
弁護士に相談しておけば、訴訟になった場合までサポートしてくれます。
訴訟にまで発展すると、専門的な知識が必要になったり集める書類が多くなったり、自力ですべてをおこなうのは困難です。
弁護士に依頼しておけば、これらの準備もすべておこなってくれます。
裁判所期日への出廷も弁護士が代理人として出てくれるので、ご自身の負担はほとんどありません。
さいごに|退職後の給料は諦めずに請求しましょう
退職後に給料が振り込まれていない場合に、諦める必要はありません。
労働分の給料を受け取ることは権利なので、いかなる場合でも振り込まれている必要があります。
もしどうしても自身で問い合わせをしたり会社が対応してくれなかったりする場合は、一度弁護士に相談してみましょう。
時効さえ経過していなければ、未払い給料を支払ってもらえる可能性はあります。